特定技能「宿泊」とは?ホテル・旅館での従事可能な業務範囲についても

特定技能「宿泊」は、日本のホテルや旅館業界が抱える人手不足を解消するために設けられた制度です。外国人材が幅広い業務に従事できる仕組みとなっています。本記事では、特定技能「宿泊」の概要や資格取得方法、従事可能な業務範囲、企業側の要件について解説します。制度の活用を検討している場合は、ぜひ参考にしてください。

特定技能「宿泊」分野とは?

特定技能「宿泊」分野は、日本の宿泊業界における深刻な人手不足を解消するために設けられた在留資格制度です。20194月に制度が開始され、一定の専門性や日本語能力を持つ外国人材が即戦力として活躍できる仕組みが整いました。

2023年に対象分野が拡大し1号と2号に分類

特定技能には、「1号」と「2号」の2つの区分があります。宿泊分野は当初、特定技能1号のみが対象でしたが、2023年から新たに特定技能2号も適用されています。この変更により、より高度な技能を持つ外国人材が長期間にわたり日本で働けるようになり、業界全体のサービス向上や人材育成の加速が期待されています。なお、特定技能1号は、宿泊業務に必要な基本的な知識や技能を持つ外国人材を対象としています。一方、特定技能2号は熟練した技能を持つ人材が対象です。現場での業務だけでなく、他の従業員を指導する能力も求められます。

特定技能1号と2号の違い

以下は特定技能1号と2号の主な違いを比較した表です。
項目 特定技能1 特定技能2
求められる技能 基本的な専門性・知識 熟練した専門性・知識
在留期間 通算5年 ※1年ごとの更新 上限なし ※3年・1年・6ヶ月ごとの更新
家族帯同 認められない  条件を満たせば配偶者・子供の帯同可能
日本語能力要件 日常会話レベル(N4以上) 要件なし
支援計画義務 必須 不要
主な業務範囲 フロント業務、接客、レストランサービスなど 指導・管理業務も含む
特定技能1号は、現場での基本的な作業を担う即戦力として位置づけられています。一方、特定技能2号は高度なスキルを活かしながら、リーダーシップを発揮することが求められます。特定技能1号と2号は目的や対象となる人材像が異なるため、企業側もニーズに応じて適切な区分を選ぶことが重要です。

特定技能「宿泊」が創設された背景

特定技能「宿泊」分野が創設された背景には、日本の宿泊業界が抱える深刻な人手不足があげられます。少子高齢化が進む日本では労働力人口が減少しており、特に宿泊業界では慢性的な人材不足が課題となっています。一方、訪日外国人観光客の増加に伴い、ホテルや旅館の需要は拡大していますが、国内人材だけでは対応しきれない状況が続いています。 また、宿泊業界は労働環境や給与水準の面で他産業と比べて厳しい部分があり、若年層を中心に国内人材の確保が難しい現状があります。このような状況を受け、日本政府は20194月に特定技能制度を導入し、宿泊分野をその対象に含めました。この制度は、一定の技能と日本語能力を持つ外国人材を受け入れることで、人手不足を補うことを目的としています。 さらに、新型コロナウイルスの影響も特定技能「宿泊」が創設された背景にあります。コロナ禍以前は訪日外国人観光客が増加し、宿泊業界の市場規模も拡大していました。パンデミックによる観光需要の急減で多くの施設が人員削減を余儀なくされ、その後の需要回復期に十分な労働力を確保できない問題が顕在化しました。このような事態にも対応するため、特定技能「宿泊」は重要な役割を果たす制度として注目されています。 なお、特定技能「宿泊」の創設は人手不足解消だけでなく、多文化共生社会の実現やサービス品質向上にも影響する取り組みでもあります。外国人材の活用により、宿泊業界は新たな可能性を模索しながら発展を続けています。

特定技能「宿泊」分野で従事可能な業務範囲

特定技能「宿泊」分野では、宿泊施設の運営に直結するさまざまな業務が対象となっています。これらの業務は、施設の円滑な運営を支える重要な役割を果たします。以下に、具体的な業務内容を表形式でまとめました。
業務区分 具体的な内容
フロント業務  チェックイン・チェックアウト対応 ●観光案内 ●予約管理 ●外国人宿泊客への言語対応など
接客業務  ●館内案内 ●問い合わせ対応など ※宿泊客との直接的なコミュニケーションを担う
レストランサービス ●配膳 ●注文受付 ●テーブルセッティングなど ※飲食提供に関する業務
清掃業務 ●客室清掃 ●ベッドメイキング ●共用スペースの清掃など
企画・広報業務  ●キャンペーン立案 ●SNSによる情報発信などプロモーション活動
これらの業務は、それぞれが宿泊施設の顧客満足度向上や運営効率化に直結しています。特定技能「宿泊」を取得した外国人材は、このような多岐にわたる業務で即戦力として活躍することが期待されています。

単純作業も従事可能

特定技能「宿泊」では、主たる業務に付随する単純作業も認められています。たとえば、フロント業務を行うスタッフが必要に応じて、客室清掃や荷物運搬を手伝うことは問題ありません。 ただし、「単純作業のみ」を専門的に任せることはできません。これは、この在留資格があくまで技能を持つ労働者を対象としているためです。具体例として、ベッドメイキングや備品補充といった作業は付随的な範囲であれば許容されます。 一方で、「清掃のみ」を行わせたい場合は別の在留資格(例:ビルクリーニング分野)を検討する必要があります。こうした制限は、特定技能制度が宿泊施設全体の運営効率化を目的としているためです。 また、不適切な雇用契約や資格外活動が発覚した場合、在留資格の取り消しや罰則が科される可能性があります。そのため、企業は従事可能な範囲を十分理解したうえで雇用計画を立てることが重要です。 特定技能「宿泊」は、外国人材が日本の宿泊施設で活躍する機会を提供していますが、その効果を最大限に引き出すためには、適切な雇用管理と制度理解が不可欠です。

特定技能「宿泊」分野で従事できない業務

特定技能「宿泊」分野では、宿泊施設の運営に必要な業務が幅広く認められていますが、従事できない業務も明確に定められています。この制限は特定技能の趣旨を守り、不適切な労働環境を防ぐために設けられています。 まずは、経営管理や施設運営の責任者としての業務は対象外です。たとえば、ホテルの経営戦略の立案など、施設全体の運営を統括するような役割は特定技能ではなく、「経営・管理」といった別の在留資格が必要です。 また、調理や料理人としての業務も特定技能「宿泊」の範囲には含まれていません。調理業務を行いたい場合は、「外食業」や「技能」といった別分野の資格が求められます。さらに、宿泊施設以外での業務も禁止されています。たとえば、併設されたコンビニエンスストアや土産物店での販売業務は資格外活動に該当します。

特定技能1号「宿泊」を取得する方法

特定技能1号「宿泊」を取得するには、宿泊業務に必要な技能と日本語能力を証明することが重要です。この資格は、日本の宿泊業界で即戦力として活躍できる外国人材を受け入れるために設けられました。取得方法は主に2つあり、それぞれのルートについて解説します。

1.特定技能評価試験・日本語試験に合格する

特定技能1号「宿泊」を取得する一般的な方法は、特定技能評価試験と日本語試験に合格することです。特定技能評価試験は、宿泊業務に必要な知識や技能を確認するための試験です。フロント業務や接客、レストランサービス、安全衛生などが出題範囲となります。 この試験は国内外で実施されており、日本国外でも受験可能です。日本語試験については、「日本語能力試験(JLPT)」、または「国際交流基金日本語基礎テスト」のいずれかに合格する必要があります。 特定技能評価試験と日本語試験に合格する方法は、宿泊業界で働く経験がない外国人材にも門戸が開かれている点が特徴です。ただし、試験対策として専門的な知識や日本語能力をしっかりと身につける必要があります。

2.宿泊分野の技能実習2号から移行する

もう一つの方法は、宿泊分野の技能実習2号を修了した外国人が特定技能1号へ移行する方法です。この場合、特定技能評価試験と日本語試験が免除されるため、スムーズに資格取得が可能です。 技能実習制度は、日本で一定期間実務経験を積むことで技術や知識を習得し、それを母国で活用してもらうことを目的としています。2020年に宿泊分野が技能実習2号の対象職種に追加されたことで、この方法から特定技能1号への移行が可能になりました。 具体的には、3年間の技能実習(1号:1年+2号:2年)を良好に修了し、その職種や作業内容が特定技能1号の業務内容と関連している場合に移行できます。この方法のメリットは、日本での実務経験を活かしながら移行できる点です。また、すでに日本で生活しているため、日本文化や職場環境への適応もスムーズです。ただし、技能実習期間中の評価が「良好」であることが条件となります。 どちらの方法でも、特定技能1号「宿泊」を取得するには、日本で働くための基本的なスキルとコミュニケーション能力が求められます。また、先述のとおり家族帯同が認められない点、在留期間が最長5年である点にも注意が必要です。そのため、雇用主側も受け入れ準備や支援計画を整える義務があります。

特定技能1号「宿泊」を取得するには

特定技能1号「宿泊」を取得するには、宿泊業務に必要な知識や技能、そして日本語能力を証明することが求められます。取得にはいくつかのステップがあり、それぞれ一定の基準を満たす必要があります。ここからは、具体的な取得方法について解説します。

1.宿泊分野特定技能1号評価試験に合格

特定技能1号「宿泊」を取得するには、宿泊分野特定技能1号評価試験に合格する必要があります。この試験は、宿泊業務に必要な基本的な知識や技能を確認するために実施されています。 試験内容はフロント業務や接客、レストランサービスなど、宿泊施設での実務に直結した分野が中心です。また、安全衛生や緊急時の対応といった基礎知識も問われます。 試験は海外でも実施されているため、日本で働くことを希望する外国人材が自国で試験を受けることも可能です。たとえば、フィリピンやインドネシアなどでは定期的に試験が行われています。 合格するためには試験範囲を十分に理解し、事前にしっかりと準備することが重要です。過去問題や模擬試験を活用しながら、出題傾向を把握する必要があります。

2.日本語試験に合格

特定技能1号「宿泊」を取得するもう一つの条件は、日本語能力を証明することです。日本語試験は、宿泊業務を円滑に行うために必要なコミュニケーション能力を確認する目的で実施されています。日本語能力試験(JLPT)、または国際交流基金日本語基礎テストのいずれかに合格すればこの条件を満たします。

「日本語能力試験」でN4以上の成績を取得する

日本語能力試験(JLPT)は、日本語学習者向けの国際的な標準テストです。この試験ではN1からN5まで5段階のレベルがあり、特定技能1号「宿泊」ではN4以上の成績が求められます。N4は日常会話や基本的な表現を理解できるレベルであり、職場での簡単な指示や会話にも対応できる能力が必要です。 JLPTは年2回、日本国内外で実施されています。受験者数が多いため事前登録が必要であり、早めの準備が欠かせません。この試験ではリスニングと読解能力が重視されるため、それぞれバランスよく学習することが求められます。過去問や模擬問題集を活用しながら、日本語力を着実に向上させることが合格へのポイントです。

国際交流基金日本語基礎テストを受ける

もう一つの選択肢として、国際交流基金日本語基礎テストがあります。このテストは日本語能力試験とは異なり、主に生活や仕事上で必要となる基本的な日本語スキルを測定します。特定技能1号「宿泊」を目指す外国人材には、このテストも利用可能です。 試験では、日本語の日常的な表現や簡単な指示への理解力が問われます。たとえば、「荷物はこちらへ置いてください」などの指示内容を正確に理解できるかどうかが評価されます。オンライン形式でも受験可能であり、自国から手軽に受けられる点が特徴です。 どちらのテストも日本語能力を証明する手段として有効ですが、それぞれ出題形式や重点分野が異なるため、自分に適した方法を選ぶ必要があります。

特定技能2号「宿泊」を取得する方法

特定技能2号「宿泊」を取得するには、一定の実務経験と試験の合格が必要です。ここでは、試験内容について、解説していきます。

特定技能2号「宿泊」の試験

特定技能2号「宿泊」の試験は、宿泊業務において専門性と指導力を備えた人材であるかを評価する目的で実施されています。 試験は、学科と実技の2部構成で行われます。学科試験では、フロント業務や接客、企画・広報、レストランサービスなどの業務に関する知識が問われます。また、安全衛生や緊急時対応といった管理者として必要な知識も含まれます。 一方、実技試験では、具体的な業務遂行能力や問題解決能力が評価されます。学科も実技も試験はCBTComputerBasedTesting)方式で実施され、日本語で出題されます。受験資格として、宿泊施設での2年以上の実務経験が求められます。この経験には、複数の従業員を指導した実績が含まれる必要があります。 試験の合格基準は、学科・実技ともに65%以上の正答率です。問題数は学科50問、実技20問です。合否結果は、試験後30日以内に公表されます。

特定技能「宿泊」で外国人材を採用する企業側の要件

特定技能「宿泊」分野で外国人材を採用するには、企業側がいくつかの法的要件を満たす必要があります。これらの要件は、外国人材が適切な環境で働けるようにするために設けられています。それぞれの要件について解説します。

旅館業法(昭和23年法律第138号)第2条第2項に規定する「旅館・ホテル営業」の認可を受ける

特定技能「宿泊」で外国人材を雇用する企業は、「旅館業法」に基づく「旅館・ホテル営業」の認可を取得している必要があります。 この認可は、宿泊施設が法的に営業可能であることを証明するもので、客室の広さや衛生設備、防火対策など一定の基準を満たしていることが条件です。たとえば、客室の床面積が7平方メートル以上であることや換気や排水設備が適切に整備されていることが求められます。 また、フロントデスク(帳場)の設置も義務付けられており、宿泊者との直接的な対応が可能な環境にする必要があります。このような基準を満たしていない施設では、特定技能外国人を合法的に雇用することはできません。

所定の基準を満たす

受け入れ企業は、「特定技能所属機関」として所定の基準を満たさなければなりません。基準には、労働条件や報酬の適正化が含まれます。具体的には、日本人と同等以上の報酬を支払うことが求められます。さらに、労働時間や休日などの条件も、日本国内の労働関連法令に準拠している必要があります。 また、企業は外国人材への支援計画を策定し、その実行責任を負います。この支援計画には、日本語学習支援や生活相談窓口の設置、住居探しや銀行口座開設のサポートなどが含まれます。これらの取り組みは、外国人材が日本で安定して働き続けるために欠かせません。

宿泊分野特定技能協議会に加入する

特定技能「宿泊」分野で外国人材を採用する場合、「宿泊分野特定技能協議会」への加入が義務付けられています。この協議会は、特定技能制度全体の適正運用と外国人材保護を目的として設立されました。 協議会への加入手続きは、外国人材の受け入れ後4か月以内に行う必要があります。加入しない場合、特定技能外国人の雇用継続が困難になるため注意が必要です。なお、協議会では最新情報の共有や受け入れ体制改善に関するアドバイスも提供されるため、企業は適切な雇用管理体制を構築できます。

1年ごとに支援業務の実施状況の届出を提出する

受け入れ企業には、支援業務の実施状況を1年ごとに出入国在留管理庁へ報告する義務があります。この報告書には、外国人材への支援内容や労働条件に関する情報を記載します。対象年の4月1日~翌年3月31日までの報告を翌年4月1日~5月31日日までに届出る必要があり、不履行の場合には罰則が科される可能性があります。 具体的な報告内容には、日本語学習支援や生活相談対応などの実施状況だけでなく、給与支払い状況や勤務時間なども含まれます。また、不測の事態(離職やトラブル発生など)があった場合には、その対応内容についても報告する必要があるでしょう。

まとめ

特定技能「宿泊」制度は、日本の宿泊業界が抱える課題を解決する取り組みです。外国人材は即戦力として幅広い業務に従事でき、企業側も適切な雇用管理や支援体制を整えることで、人材不足解消とサービス向上を図れます。本記事で紹介した内容を参考に正しい理解と運用のもと、制度の活用を検討してみてください。